「ニーズを信じられるような場所があること」

気がつくと11月。今年も終盤にさしかかっている。

久しぶりに訪れた本郷三丁目は、まだまだ人が戻りきっておらず、以前よりどこか寂しさを感じてしまう。

「回復期。ほぼ戻ったと考えながらやりたいね…ここからは。」

イマココをそう話したすぎやん。


すぎやんについて、なにをしているのか、どこに所属しているのか、ひとことで表現するのは簡単ではない。

あえて強引にいうのであれば、今は株式会社リツアンSTCに所属しながら、高校生にオンライン授業を届ける「高校生みらいラボ」、ワンコイン定食のすぎ山食堂、高齢者とのシェアハウス・・・そんな感じで、直近関わっていた活動、関わっている活動はたくさん。

学生時代から「面白いこと」を追求していて、社会人になっても変わらない。

・・・そう考えていたけれど、それはきっと、すぎやんという人物のほんの一面でしかないのだと聞いていて感じます。

話は数年前、すぎやんが新卒のころにさかのぼる。


順風満帆に思えた中での限界

すぎやんは大学を卒業した後、フリーランスのファシリテーターとして活動を始めます。

高校生に進路の授業を行う一般社団法人Foraの「学問ファシリテーター育成講座」でディレクターをしたり、N高校でインプロ(即興演劇)を使ったワークショップを実施したり。

※学問ファシリテーター育成講座は現在「Fo-LAB」に名前が変わっています。

他にもイベントでファシリテーション務めたりなど広く活動をしていました。

一見順風満帆に見える状況。しかし当人は壁にぶつかっている感覚を抱いていたといいます。

「フリーランスゆえの孤独さと、フィードバックをもらえない環境…自分のレベルを上げていくことへの限界を感じていました」

悩ん結果、すぎやんは一旦組織に所属することに決めます。ただ、その決断には大きな葛藤があったといいます。

「1人でやっていくと言って新卒でフリーランスになった手前、組織に所属することに抵抗があったんです。そもそも”この会社でこれやりたい”がなかったから就職しなかったわけで…」

よく聞く”三年間修行する”というのも、その三年間がもったいないという考えだったすぎやん。

「今から思えば三年ぐらい勉強すればいいと思う気もするのだけれど……そうは行かない性格で」

考えに考えた結果、ファシリテーションを活かし、より広げられると考え「社会事業コーディネーター」として、組織に所属をしてリスタートをすることを決断します。


自分だからこそできること、活かされること

組織に入ると、自分が苦手なことってこんなにあるのかと、思い知らされたといいます。

「失敗しかしていないです。苦手な仕事をやらせてもらえるってフリーランスではありえないことです。ミスしたらちゃんと報告して助けてもらえばいいって、初めての感覚で。勉強になるんですが、絶対自分がやらないほうがいいだろと思うこともたくさんあって。」

苦手なことに挑戦でき、フィードバックをもらえる環境。自身の幅が否が応でも広がる状況は、すぎやんが狙っていた部分でもありました。

一方で、どこか物足りなさのような葛藤も抱いていました。

「たしかに色々なことに挑戦させてもらえる環境ではあるのだけれど、当然へたくそな新入りなので、自分だからこそとか、自分が発揮されている、ってなるわけがなくて…」

そんな時にすぎやんにある話が舞い込みます。

東大前シェアハウスで気が向いたときに友達に料理を振舞っていた「すぎ山食堂」のことです。実家のような雰囲気の場所で食べる、あたたかくて、おいしい料理。すぎやんの周りで活動している「面白い人たち」の交流の場にもなっていたりします。

それを、リアル店舗化してみてはどうかという計画。フリーのころから仕事をもらっていた、リツアンSTCの社長の発案でした。

「俺だからこそできること、俺の活動じゃん!と。それはやる!と思い至ったんです」

他にもオリンピックに向けて企画していたこともあり、ワクワクの2020。すぎやんは年度末を区切りに所属をリツアンSTCに移し、店舗化に向けて動き出します。


立ち込める暗雲

しかし、その計画に暗雲がたちこめてしまいます。

原因は現在進行形で猛威を振るっている新型コロナウイルス。

様々な飲食店が自粛、また悲しく残念なことに閉店の決断を迫られてしまった店舗もある中で、すぎ山食堂の店舗化計画も例外ではなく影響を受けてしまったのです。

今このタイミングで開業をするのか、できるのか。そもそもターゲットの東大生も今期オンライン授業中心のため戻ってくるか分からない状況。

「いつ開業できるか分からない状況だし、そもそも本当に料理するの?みたいな感じではあって….もともと料理がしたいわけではないので」

すぎやんが実現したいのは、食事を媒介に、様々な人が集まってくる場所。人が集まるという根本の行動がコロナウイルスによって制限されている今、その目的から問い直さなくてはならない状況に。

結果、すぎ山食堂の店舗化計画を見直すことに。それに伴いすぎやんは再度自分の立ち位置や現状を考え直します。

「リツアンからも、仕事は振るけど基本的に好きにやっていいよと言われていて。じゃあ何がしたいんだと」

普通の人から見たら夢のような状態かもしれない。しかしこの状況に相反するように、エネルギーが高まらずに、だんだん元気がなくなっていってしまいます。

2020年序盤、コロナウイルスが本格的に猛威をふるい始めようとしていた頃でした。


高校生みらいラボは、高校生が自分のやりたいことを見つけて、羽ばたいていくためのオンラインプラットフォーム。大学生や社会人が高校生に対してオンラインで授業を行っています。

3月に始まり、4月1日から本格始動。すぎやんはその運営チームの一員として授業企画や当日のファシリテーションなどを担っていました。

「4月に新学期が始まらないと分かったとき、絶対に今やったほうが良い!やりましょうよ!と伝えて、運営に加えてもらいました」

高校生のニーズや状況と合致していたこともあり、GWまではノリノリでやっていた。

しかし休校が明けると、高校生も忙しくなり、コロナ対策の教育支援という意味合いは薄まっていく。

「元々高校生みらいラボはコロナと関係なく、中高生が夢やロールモデルを見つけられる場として立ち上がったものなんですが、僕はそもそもコロナ禍での中高生のためにと思って加わったんですよね。だからズレが出てきてしまって、もやもやを感じながらやっていましたね。」

しっかりやらなくてはいけないものの、元気が出ない状態がつづく。また、その元気のない理由をすぎやん自身もよくわかっていなかった。

「面白いしファシリテーションだし高校生のためにもなる。これ以上あまりないようなくらい俺向きな気がするのにパワーがいまいち乗らない。もうこの世界にやる気が出るものは無くなってしまったんじゃないかとすら」

すぎやんの葛藤はますます深まっていってしまいます。


高校生未来ラボの活動に悩んでいる頃、すぎやんは大学の友人と再会をします。

「大学の時の友達なんですけれど、空気が抜けたような自分の状態を見て、うちに来いと言われて….わけもわからずシェアハウスに連行してくれたんです」

すぎやんはシェアハウスで暮らしながら、深刻にならずにとにかく休めと諭されます。

みらいラボにも休みをもらうことにし、本当にやりたい部分だけ、今も関わっています。

シェアハウスに来てから二ヶ月が経った頃。もう大丈夫となった状態で、すぎやんはシェアハウスから出ることを決めます。

季節は秋の足音が近づいていました。


フリーランスだからこそ感じること

すぎやんは改めてフリーランスの立場を認識します。

「やっぱり大学生はすごいなって。引継ぎでこれやらない?と聞くとすぐに『やります』と返事が返って来る」

詳細などを聞かずにフットワーク軽く返事が来る。しかし考えていくと、それは学生か社会人かという違いではなく、すぎやんがフリーランスだからこそ感じるのだと気がつきます。

「そう思うのは、俺がフリーランスでお金を稼ごうとしているせいだなって。社会人も定時が終われば手伝うよってなるし。フリーランスの場合、全部の時間で食べていかなくてはならない。そうすると自然とケチになってしまうし、投資もしなくなってしまうなって」

本来であれば時間に対しての裁量があり、よく分からないことに首をつっこめるのがフリーランスの良さ。しかし、収入源が流動的なせいで逆に動きづらくなることもあるのです。


他人ニーズで動き続けてきた

今までの経験を振り返り、すぎやんは自身”を他人ニーズで動き続けてきた”と考えます。

「ブランディングとしては”面白いことを急にやり始める面白いやつ”で、そう思われたいと自分でも思ったりするのですが、実は他人ニーズスタートなんだなと。むしろニーズがなければ何も生まれてこないんじゃないのかなって」

すぎ食堂も、他人がお腹空いたというからご飯を作ったら喜ばれたのが始まり。初代編集長をしていた東大発オンラインメディアのUmeeTも、高校への進路教育を行うForaも他人ニーズだった。元々チームがありこの部分を助けてくれ、特に面白が足りないから協力して欲しいというニーズがあって関わったものだという。

「他人からのニーズがあって、自分もそれに応えられる・応えたいって信じられるような場所があると強いなって。ニーズがあるから自分も深く活動に入っていけるし、色々な人をつなぐこともできる。一方でニーズを信じられなくなると、ここに居場所はないのではないかと思ってしまうなと」


もうひとつ、”名乗れるかどうか”も、すぎやんにとっては重要だといいます。

「誰か他の人と会った時に名乗れないと、自分が何をしている人なのか自己紹介ができないとキツイなって。その意味では、なにか一個紹介できる軸が残っているかどうか、が自分にとって大事なんだと思ったんです」

すぎやんにとって、ファシリテーションをその対象にしたいと思っていた時期があったといいます。特に新卒でフリーランスとして活動していた時期は、その想いが強かった。

しかし、それもコロナウイルスとともに変わってしまう。

「今のオンラインの状態でファシリテーションをすることが結構しんどいというか…芸風と合わない感じがしていて」

すぎやんがずっと開催しているすぎ山食堂もリアルの場での開催を前提としている。

今となっては社会的にリアルの場での開催が少しずつ戻ってきてはいるもの、当初と比べるとまだまだ戻っていない状況。

「コロナはその意味でしんどくしてしまったなって」

苦い顔で話します。


路上で何かやりたい

話は今のすぎやんにもどります。

現在、すぎやんは元々すぎ山食堂を開いていた家の母屋で生活中。そこで暮らしながら、改めて”自分が名乗れるもの”を考え始めます。

高校生みらいラボの中核を離れ、新しく何かを見つける状況。ただ、そこに焦りはない。

「早く何か探さなきゃと思った時もあったけれど、最近はまぁいっかと落ち着いています。長いとらわれの状態があったから、そんなにすぐ見つからないかなって思って、色々な場所に顔を出したり、本読んだりしています」

良さそうなアイディアが一日のうちにいくつか見つかり、次の日にはやっぱダメじゃんとなるのを繰り返す日々。

その中で、今考えている活動が一個あるのだという。

「やっぱり路上で何かやりたいなと思っています」

その想いに至ったのは、舞台芸術への憧れとリアルで何かを行うこと、二つに対してのすぎやんの強いこだわりだ。

「コロナウイルスによって舞台芸術全般がダメージを受けている状況で、たとえルール上厳しかったとしても、リアルで人と触れ合ってやりたいなと」

漫才、インプロ、演劇・・・すぎやんが関わってきた舞台上での表現は様々。その中で、今のこの状況で、どの分野でどのように行えば、路上での活動が実現できるのか、思考をめぐらせます。

観点として考えたのが、まずはお客さんに止まってもらえること。

「漫才やインプロは文脈がないと分からないから、途中で止まってもらうのは難しかったりします。一方で、音楽とかジャグリングみたいな現象の場合はわかりやすく止まってくれる可能性が高いんじゃないかなって」

漫才やインプロなどの話芸は始めから座ってもらう必要がある。一方で、音や現象の場合は途中からでも問題なく見れる。だから通りすがりの人でも立ち止まっなてもらいやすいのではないか、すぎやんは考える。

その現象として選択したのが”書道”だ。

「ただ、書道だけでやれるかというと厳しいなと思って。別に何段とか取っているわけではなくて好きでやっているだけのレベル。だからもうひとつ、スタチューと組み合わせられないかなと考えています。」

スタチューとは人が演じている固まっている像のようなもの。時々動いたりしながら路上でパフォーマンスを行っているのを海外でよく見かける。

「オリパラがどうなるか分からないけれど、書道とスタチューで路上パフォーマンスができたら、外国人にも楽しんでもらえるんじゃないかなって。今後、海外まわっても面白いかもしれないし」

笑って話す。


もうひとつ、すぎやんが気になっている活動があるという。

自身の過去を振り返り、未来を考えるオンラインワークショップ。

このように書いてしまうとネット上に多くあるものと思われてしまうかもしれませんが、それらとは一線を画しています。このワークショップの面白い点は、年齢関係ない場をつくっている部分です。

小学生から高校生、大学生、また社会人までもが一つの場所にあつまり、「自分は何が好きで、何をやってみたいのか」を考えていきます。

「何かの成果を出すみたいなことになると習熟度に合わせるのが当然なのですが、どうやって生きていくか考えることは、誰もさぼっちゃいけない、常に履修しなければいけないものだなと思って」

札幌で活躍するフリーランスファシリテーターの方がコロナ前からオフラインで開催していたものを、今はオンラインに展開。

「10月の連続ワークショップに参加して、これは本当に価値があると思いました。自分と関わりのない、全然異なる相手だからこそ、素直に話せる。安心安全の場が生まれています。」

11月のワークショップから運営として、コンセプトを練り上げている。

参加フォームはこちらから

*部分参加も歓迎とのこと。すぎやん本人に聞けば、アツく語ってくれるでしょう。


ニーズがあると思えないとやれない

最後に再びニーズについて話してくれました。

「良いことでもあり悪いことでもあるのだけれど、ニーズがあると思えないとやれない自分がいて….これはバズりうるのではないか、勝ち目があると思わなければやれなくて。たぶん、失敗したくないのかもしれない」

世の中には、社会や他人のニーズなどは関係なしに自分の好きなこと、やりたいことに突き進む人もいる。すぎやんも一見そのタイプに見える。しかし、そういう訳でもないという。

一方で、それは決して良くないことではないかもしれない。ニーズを考えるからこそ、それらがつながっていくことで生まれていく価値もきっとある。

すぎやんが考えるのは、それぞれの活動がつながり合っていく状態だ。

「これをやる人なんだなと自分自身を思えることで、それを軸に他の活動にもつなげられるなって」

それは、すぎ山食堂が、様々な活動をしている人が集まる場所になり、そこから何か新しい出会いやプロジェクトが生まれていったようなものに近いのかもしれない。

”軸となる何か”は、路上でのスタチュー書道かもしれないし、ワークショップかもしれないし、すぎ山食堂かもしれない。また、これから生まれるおもしろい何かかもしれない。

その軸となる何かを、楽しみにせずにはいられない。


おわりに


すぎやんさんと初めて話したのは5年前ぐらい。後に一般社団法人Foraと名前がつく、その団体活動で高校に授業をしに行った時でした。

それから時間が経ち、気がつけば20代も半ば。時間が経過していく中で、また今後、どこかのタイミングで何らかの形で面白いことが一緒にできると嬉しいと話を聞いて改めて思いました。

どこかで重なっていくことを楽しみにしつつ、僕自身もすぎやんさんのニーズの一つになれるように、と勇気をもらいました。

(れい)