「白でも黒でもなく、グレーぐらいな感じでいたい」

春と呼ぶにはまだ早い、2月の下旬。よく晴れた、休日の昼間に。

いつも何かに取り組んでいて、いつも何かを考えている、そんなイメージがある。会うのは本当に久しぶり。久しぶりだけれど、その間も、きっと、何かに打ち込んでは、考えてきたのだろう、と勝手に思ってしまう。

「混沌とか迷い、模索中」

イマココの気持ちをそう答えてくれた。

大学の頃から、悩み、考え、行動してきたように思える彼女。社会人になっても、悩み、考えているのかもしれない。

今感じていること、考えていることを、話してくれた。


「やりたいことが色々出てきたり、本当にしたいことってなんだろうと考え始めたりしています」

社会人一年目。こばゆは、「人材系×広告」が強みで、主に採用ブランディングなどを行う企業で、ディレクターの仕事をしている。

「ちょっと前まで、なんとなくの人生設計をしていたのが崩れたので、また一から立て直しています。」

昨年思い描いていた社会人生活は、少し異なったものだったそうだ。

「仕事が仕事じゃないくらい楽しくしたいなと思っていて、色々な人とコラボしながら仕事したりとか、会社という枠ではなくて、色々行ったりきたりしながら、学びながらもやりたいなって。」

けれど、と続ける、

「若手だから経験もないし、言われたことをやらなきゃとか、思ってしまうこともあって…組織ってなんかこう大きいなって。」

自身のことを、従順にシステムを理解してやっていこうと思うタイプではない、そう話す、こばゆ。社会に出て、会社に出て、抱いた違和感を放っておくことはできない。

「『え、違うんじゃない!』と思ったら、『違う!違う!』と声を出すタイプなんです。子どもっぽいねと言われることもあるんですけれど。」

そう言って笑う。


ハッピーな働き方

こばゆが社会人になって抱く「違和感」その一つは、「線引き」や「関係」についてだという。

「たとえば、好きなお客さんだったら別に仕事じゃなくてプライベートでも仕事したいと思うじゃないですか。今は、明確にクライアント・発注先みたいな関係性で分かれていて、それがもったいないなとか思って。」

学生の時とは違う、線引きや関係を感じている。

「学生の時は、何にも染まらなかったというか、身分はなくて。でも社会人になったら、何々会社の誰々で、お客と自分、お金とアウトプットという関係で括られる。これ以上はお金がもらえないからやらないという線引きがあったり、お客様とのカジュアルな話がどこまで許されるんだろうなとか思ったりします。

線引きがうまくなくて、先輩からはプロ意識がないと言われたすることもあるのだとか。

線引きすることで、線引きから溢れてしまった要素は見えなくなってしまうので、 そういった線引き超えていくようなもっとハッピーな働き方ってあると思うんですけれどね、そう話す。


数値化されないところで生きていたい

社会人になり抱く違和感の理由を辿ると、大学生の時の働き方に行き着く。

「学生時代に自由に動きすぎた」と話すこばゆは、大学生の頃、民間の教育会社のリサーチ部門で仕事をしていた。

「学生だけのチームだったんですけど、自分たちで色々と考えて働いてました。モチベーションが上がらない場合、どうしようかとかも考えたり。自分の好きなプロジェクト、関心あることメインに、そこから全体に影響力を考えたりとか、得意なことをお互いお願いしあったりとかしていました。」

会社員じゃないので、収益性とか考えなくてよかったからかもしれないけれど、と付け加えつつも、その時の働き方に自由さを感じていた。

その時のことと、今の仕事を重ねると、どうしても、お金などの、”数値”という部分が目に入ってきてしまう。

「社会人になって、最終的にお金とか数値ではかられる社会なんだなと思って。数値とか出されると、それに従うしかない感じがして、嫌だなと。」 

こばゆは、入社前に会社の人事の人に、ある言葉を言われた。

「入社前に、会社の人事に、小林さんは一番掴めないねって言われたんです。白も黒も言えないめっちゃグレーみたいな感じで。」

そこに大して、自分でも変な納得感があるという。

「客観的にみたらそうかもしれないし、そうでないかもしれない。ただ、そのグレーぐらいな感じでいたいなと思っています。」


制度に組み込むこと

新しい環境で、新しいことを経験し、様々なことを感じている、こばゆ。ただ、状況を受け止めるだけではない。

実際に動き出していることが2つがある。

「社内の新卒の人事制度を提案したいなと考えています。『制度』とまではいかないんですけれど、同期とアンケートを集めて、次の研修とかに活かせる何かを提案したいなと思って」

こばゆがそう思うに至った背景には、同期の休職があったという。今は戻ってきた人も居るというものの、それを通して、マネジメントや、組織や人、その関係性について、考えた。

「今の子は弱いみたいに言われるかもしれないですけど、そういうことじゃないんじゃないかなと思っています。例えば、若い世代の価値観の変化と組織が合ってないのかなとか。社内制度をもっと変えないと、せっかく良い子を採用したりしても全然うまくいかないし、組織としても成長しないんじゃないのかな」

決して、「その子だけ」ではなく、周りの環境や制度も見て、起きている要因を考える。

そこは、もしかしたら、学生の頃から変わっていない、こばゆの信条に近い、考え方、なのかもしれない。

「今年の新卒はメンタルが弱い。自己肯定感が低いからこうなった、という声もあるのですけれど、そう思うんだったら制度に組み込んだほうがいいと思うんです。新卒に自分でどうにかしろというのは求めすぎているのかなって」

こばゆが、環境や制度、について考えるのは、学生時代、教育について、学び、活動してきたからかもなのかもしれない。

「教育やってきたからなのか、環境によって人生って左右されると思っているところがあります。例え、ある子がメンタル病んだりして、転職することになったとして、一見その子のせいだと思われるかもしれないけれど、実は会社とか仕事とかの相性にあるかもしれないと思うんです。そんな中で、その人の責任、自己責任にするのってひどいなって」

新卒の立場で分からない、と言いながらも、そこに、こばゆの意思を、確かに感じた気がした。


若手の革命軍

もう一つ、社外での取り組みがある。

「QWSでプロジェクトをできたらなと」

QWSとは、昨年オープンした渋谷スクランブルスクエア内にある施設。「問い」をもとに、様々な領域の人が集まってプロジェクトを行なっている。

次が第三期で、新しくプロジェクトを募集しているという。

「新卒入社の同期とかが、会社に合わなくてフラストレーションを抱えていて、それを解決したいなと思って。」

若手の革命軍みたいな、と笑いながら話す。

「そんなラディカルな感じで考えてはいないんですけれど笑、若手の会社の意見を集めて第三者としてまとめて、経営陣に上げて、新しい方向性を打ち出せると良いなとか考えています」

第三者、というところが一つのポイントなのだとか。

「社内の若手が言っても、利害関係とかあって難しいから、第三者の立場で提案することが良いんじゃないのかなって。組織が良い方向にいくにはどうしたら良いんだろうなと考えた時に、それが一番現実的にできるプロジェクトなんじゃないかなって思いました。」


イメージで考える

こばゆは自身のことを、適度にフラフラしているのが好き、という。

「私、物事を完全に遂行するの苦手なんですよ。アイディアはパッと出てくるんですけれど、一気通貫した感じでやってきたのが高校受験ぐらいなんです。」

それ以降は、自由に、関わりたい範囲で関わることが多いと話す。

「後、最近気がついたんですけれど、私、思考が言語ではなくイメージで出てくるんです。考える時は、言葉ももちろん出てくるんですけれど、イメージで出てくることが多いです。」

そう言って、小学校の時のエピソードを話してくれた。

「小学校の時、朝の運動時間があって、その時間に、何をするのか決める役だったんです。ある朝、霧が出たんですけれど、ふわっと、この霧の中で鬼ごっこしたら楽しそうと、頭の中で、みんなで霧の中で鬼ごっこしている瞬間が浮かんだんです。見えるか、見えないか、その状態がめっちゃ楽しいだろうなと」

こばゆの、その、イメージで捉える習性は、日常の場面、例えば服を選ぶ際にもあるという。

「服を選ぶ際も、色と配置を頭の中で考えます。この配置でこういう感じの雰囲気が良いんじゃないかと、いろんなパターンをやっていくと経験値がつまれて、その中で頭の中でイメージが浮かんでくるんです。」

一方で、その自身が考えているイメージを、他の人に伝えることはそう簡単ではないのだとか。

「イメージを具体化して他の人に伝えるというところで、何段階か必要になってきます。イメージを言語化して、伝えることをもうちょっとがんばりたい。体験の言語化TAでもあったので。」

その際、こばゆが思い浮かべる、概念がある。

それが、山田夏子さんという、グラフィックファシリテーションの第一人者の方から聞いた、「3つの現実レベル」というもの。

「現実は三つに分けられていて、それは、合意的現実レベル、ドリーミング・レベル、エッセンス・レベルだと言います。合意的現実レベルは、数字とかズレがないもの。ドリーミング・レベルは、言葉にはなっているもので、気持ちとか、ざっくり共有できるもの。エッセンス・レベルは直感とかイメージとか。」

こばゆが描いてくれた概念図

もともとは、アーノルドミンデルさんという方が提唱している概念。その方が、紛争解決に従事されていて、何で対立が起きるのかを考えた際、イメージや言語が、共有できていないからと至ったそう。

その「3つの現実レベル」について、特にこばゆが面白いと思うのは、それぞれの階層が超えられていくところ。

「体験の言語は、エッセンス・レベルをドリーミング・レベルにする。グラレコは言語化されたものを絵にする。そういうそれぞれの階層が超えていくところが面白い。」


面白いだけでもなく、そこには、憧れの感情もある。

「そういった階層を、全部繋いでいけるというか、言葉にできる人というか、そういう人が私にとってかっこいいなと思える人です。」

そして、こばゆ自身も、そういった人になりたい、という。

「クリエイティブとかも言葉をアウトプットしたり、コンセプトをデザインしたり、一段階超える感じがあって。社会的なデザインとかも方向性を形にしたりとかあって、そこら辺を何となくやりたい。ただ、いつもやりたいわけではないんですけれど、気まぐれ?そういうのをやりたい時もある」

何となく、やりたい時もある、言葉としては柔らかく聞こえるけれど、そこには、こばゆの目指している姿や、今後の意思が少しだけ垣間見える。

「数値を第一に考えている人に対しても、ぎゃふんと言わせられるようになりたい。」

最後に、話してくれたこの言葉に、こばゆの今の想いが凝縮されている気がした。


Annotation & Portfolio

・体験の言語化
こばゆがTAをしていた、早稲田大学の授業。やや形式ばった説明をすると、「『自分が心に引っかかった体験』を思い起こし、その体験を改めて捉えなおす中で、個人の体験を単なる個人的な経験ではなく、社会の課題に結びつけ、『自己を社会に文脈化する』思考プロセスを学ぶもの。(https://www.waseda.jp/inst/wavoc/contextualize/))

・山口周さん
独立研究者で、『ニュータイプの時代』等の本を書かれている方。”数値化できないこと”という部分は、山口さんの話も参考にしているのだとか。

・写真
こばゆが最近撮った写真。味が出ていて素敵。

写ルンです、で撮ったという写真。

紅葉。

透ける感じが好きだという。

十和田市現代美術館にあるアート。2番目に好きな作品だという。肩車している人が上から下まで連なっている。輪廻がテーマで、こうして人から人に繋がっていく。「そう考えると、自分がしていることが儚すぎると思えてきます笑」と話す。

直島にあるアート。人が一日していることが、光ったり、消えたりして表現されている。「基本、人間って、単純なことをしているなって思ったりして、面白い。世界の縮図のよう。これを見るためだけに、直島に行っても良い」と話す。スマホの壁紙にしているそう。

おわりに

こばゆと初めて会ったのは、確か早稲田大学で中学生向けのキャリア教育イベントを企画していた時。それから5年ぐらいが経ち、当時イベントに来てくれていた中学生も大学生になる頃。そのように考えると、時間の流れは恐ろしい程に早い…

「仕事が仕事じゃないくらい楽しくしたい」「色々な人とコラボしながら仕事したい」そう話してくれたけれど、僕自身も、いつか、何らかの形で、一緒にこばゆと仕事をしたいなと、勇気をもらいました。

(れい)